資料分析

 古代史を復元するのに神社伝承・中国文献・考古学的事実を参考にすべきである。

第一章      古代史の復元

第一節 国内資料

 一般に古代史を探る資料としてよく使われているのは,次のようなものである。

①古事記・日本書紀・神社古伝承などのヒノモト内資料。

②魏志倭人伝・後漢書東夷伝などの外国史料。

③遺跡・遺物の出土状況。

 ヒノモト内資料は,他の資料に比べて詳しいのであるが,都合によって書き換えられている可能性もあり,その信憑性に疑問があるというのが一般的見解である。しかし,より正確であるといわれている外国史料や遺跡・遺物は,断片的であるために,全体の流れをつかむことができにくく,複数の解釈を生じている。このような状況であるから,いつまでたっても古代史の謎は解決しないのである。

 信憑性に疑問があると雖も,最も詳しいのは国内資料である。例えば,戦国時代において,今川義元が上洛の兵を挙げてから,徳川家康が幕府を建てるまでの国内の記録がすべて失われていて,それを,遺跡・遺物と外国の資料だけで正しく復元できる人がいるだろうか。このようなことは,まず不可能である。このように,国内資料を無視した状態では,複数の解釈が可能となり,正解を得ることはまず不可能と考えられる。全体の流れをつかむには,ヒノモト内資料に頼るしかないと判断し,ヒノモト内資料のうち,正確である可能性の高いものを基に古代史を復元し,その内容を,外国史料や遺跡遺物と照合することによって確認し,矛盾を生じるものはその伝承が正しくないと判断するという方法で論を進めたいと思う。

 古伝承に関して,多くの人の書物を拝見した中で,真実に近いのではないかと個人的に判断したのが,栗原薫著の「日本上代の実年代」,原田常治著の「古代日本正史」・「上代日本正史」そして,小椋一葉著の「消された覇王」・「女王アマテラス」である。

 「日本上代の実年代」は,古事記・日本書紀の年代が古代の半年一年暦で決められており,その後の通常の暦との間で,混乱が生じたために,年代が合わなくなっているという仮定の下で,年代復元をしたものである。この復元年代を用いると,古事記と日本書紀の間の年代の違いを説明できるばかりか,中国史書や,好太王碑文,朝鮮半島の史書などとほぼ完璧に一致しているという結果が得られた。偶然で一致することはとても考えられないので,この仮定は正しいと考えられる。それと同時に,古事記・日本書紀は意外に正しい情報を伝えている証にもなる。しかし,一致しているのは開化天皇の没年(245年)以降のことであり,それ以前は,単純に日本書紀の年代を半分にしただけで,他資料との年代不一致がかなり見受けられる。そのため,崇神天皇以降について,「日本上代の実年代」は,概ね正しいと判断したい。

 次に,「古代日本正史」・「上代日本正史」・「消された覇王」・「女王アマテラス」であるが,これらは,著者が日本全国に散らばる神社に伝わる古伝承を調べ上げ,その古伝承につながりがあることを発見して,古代史を復元したものである。

 離れた場所にある複数の神社が,互いを裏付けるような伝承を持っていることが多い。このように複数の神社で裏付けられた伝承をつないでいくと,古事記・日本書紀とは別の古代史が浮き出てくるのである。そして,各神社の伝承の食い違いを調べていくと,古事記・日本書紀に沿うように,伝承の改竄が行われていると言った事実も浮上してくる。

 たとえば,古事記・日本書紀では,伊弉諾尊・イザナミが国生みをしたとあるが,神話に記録されている場所の神社を調べてみると,伊弉諾尊やイザナミが祭られているものはほとんどなく,あっても具体的な行動を示す伝承を伴っていない。しかし,相当数の神社が代わりに素盞嗚尊や饒速日尊を祭っていて,国土の統一をしたという伝承を伝えている。一つや二つの神社がこのようなことを伝えているのであったら,何かの間違いということも考えられるが,非常に広範囲に分布する数多くの神社が,古事記や日本書紀にはない具体的な各地における業績を伝えているのである。これは国土統一をしたのは素盞嗚尊や饒速日尊で,古事記・日本書紀では,その業績を伊弉諾尊やイザナミにすり替えたものと判断することができる。

 これらの伝承を伝える神社は数が多い上に,古事記や日本書紀が編纂される前に建てられたものが多いために,古伝承を故意に作ったとか,偶然一致するとか言うことは考えにくく,真実を伝えていると考えた方が自然である。

しかし,これら書物の復元古代史は,大和朝廷の成立を241年としており,中国史書や遺跡・遺物との照合が不十分で,その年代設定に矛盾が生じていて,「日本上代の実年代」とも繋がらない。そこで,神社古伝承の年代を何年か遡らせて修正し,「日本上代の実年代」と繋いだ古代史を復元したいと思う。

 

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